お知らせ・コラム

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猫の病気

2024.07.19

猫伝染性腹膜炎(FIP)について(2024年)

猫伝染性腹膜炎(FIP)は長年、様々な治療が行われてきたものの治すことができず、発症したら必ず亡くなってしまう病気でしたが、近年、治療が大きく進歩し、多くの猫が完治できるようになりました。当院でも多くの猫たちが治療によって回復し、元気な姿を見ることができるようになっています。しかし、まだ研究段階であり、治療に当たっては、さまざまな問題点などがありますので、今現在のFIPの現状について、ご報告します。

猫伝染性腹膜炎(FIP)の変化について

猫伝染性腹膜炎(FIP)は、従来、弱毒の猫腸コロナウイルスが、免疫力の低い猫の体内で強毒FIPウイルスに変異し、発症して起こる疾患とされてきました。そのため他の猫には感染することはないとされ、事実、同居の猫で多発することはありませんでした。しかし、近年では同居の猫に発症してしまう例が多く見受けられ、FIPウイルスを発症した猫からの感染が認められるようになりました。多くは子猫の時に感染した腸コロナウイルスが変異して、比較的若い猫に発症していたFIPですが、10歳以上の猫で感染が見つかったり、単頭飼育の高齢猫で発症したり、従来のFIPとは異なった発症が多く見られるようになりました。人のコロナウイルス感染が変化したのと同じく、猫のコロナウイルスも変異したものと考えられます。症状は異なるにせよ、猫から猫のみならず、おそらく人を含む他の動物から感染したり、他の動物に移すということも考えられ、今後の研究が待たれます。

 

猫伝染性腹膜炎(FIP)の症状

FIP発症猫の症状は、以前と変わりはなく、元気消失、発熱、黄疸、貧血、腹水や胸水貯留、腹腔内などに腫瘤(化膿生肉芽腫)の発生、リンパ節腫大、目の濁り、虹彩の色調変化、痙攣、歩行異常、皮膚炎など様々で、複数の症状が出ている場合もあれば、1つのみでわかりにくいこともあります。目の症状のみや皮膚にのみ変化が見られた子の場合、非常にわかりにくく、様々な検査を行う必要があります。

猫伝染性腹膜炎(FIP)の検査

血液検査では、多くが高グロブリン血症、SAA上昇、α1AG上昇、高ビリルビン血症が認められ、その他に貧血や好中球上昇も認められたりもします。エコー検査では、腹腔内のリンパ節腫大や腫瘤の有無、腹水や胸水の確認、腎臓の形態異常などを確認します。また、腹水や肉芽腫細胞浮遊液、血液などにウイルスが存在するかのPCR検査などを行い、総合的に判断します。中には、FIPの疑いが否定できないにもかかわらず、検査では異常が見られなかったり、判断が難しいケースもあります。

猫伝染性腹膜炎(FIP)の治療

治療は主に抗ウイルス薬の投与がメインとなります。抗ウイルス薬を投与しないと完治することはありません。

抗ウイルス薬は、主に海外で流通しているレムデシビルやGS441524、モルヌピラビルになります。レムデシビルとGS441524は数年前から海外で未承認薬として猫に使用されてきた背景があり、治療経過が長く治療ガイドラインなども確立されていますが、非常に高価で入手も困難な薬となります。モルヌピラビル(ラゲブリオ)は日本で入手することができ、レムデシビルやGS441524に比べると安いものの高額で、治療期間が3ヶ月を要するため負担が大きくなります。当院では、主にモルヌピラビルのジェネリックを使用しているため、今のところ安価に治療が行えています。重症の子向けに注射薬のレムデシビルも用意はいていますが、高価となります。

治療が成功するか、しないかは、早期に診断をつけることができ、早期に治療を開始できたかが大きく影響し、また充分な期間、投薬を行えたかが重要のようです。中には進行が非常に早かったり、肉芽腫を発症した場所によっては、早期に治療をしても亡くなってしまったり、後遺症が残ったりするケースもあるでしょう。また、本当に完治したのかが、非常にわかりにくいため、3ヶ月服用後、休薬となった治療後も充分に注意して観察する必要があります。

今後の課題

とにかく、治療薬がどの病院でも簡単に入手できるようになり、価格も安くなることが望まれます。密かに売買されている当時は治療に100万円以上かかると言われ、治療を諦めざるおえないケースが多かったと思いますが、現在は比較的安価に治療が行え、完治することができるようになりましたので、諦めずに治療を行ってもらえればと思います。治療費は、体重や重症度で異なりますので、お問い合わせいただければと思います。

 

 

 

愛知郡東郷町 なぐら動物病院 名倉美智子

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