お知らせ・コラム

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犬の病気

2024.08.26

犬の多中心型リンパ腫

犬の多中心型リンパ腫とは

血液中には白血球の一種であるリンパ球という細胞があります。リンパ球は体液性免疫に関与するB細胞性リンパ球と細胞性免疫に関与するT細胞性リンパ球に分けられています。リンパ腫とは、これらリンパ系細胞が腫瘍性に増殖した病態のことを言います。

犬のリンパ腫は腫瘍全体の7〜24%程度を占め、発生頻度の多い腫瘍です。発生部位によっ
て、多中心型、消化管型、縦隔型、皮膚型などに分類されますが、リンパ節以外の場所にも、発
生します。特に犬では多中心型リンパ腫の発生が多く、リンパ腫全体の80%以上になります。
多中心型リンパ腫は、体表リンパ節の腫れを特徴とし、肝臓や脾臓、骨髄などに浸潤すること
もあります。特に下顎リンパ節や浅頚リンパ節、膝窩リンパ節の腫れに気づかれる飼い
主様が多い病気です。

 

<各種リンパ節の場所>

〇で囲まれたリンパ節が気づきやすいリンパ節です

 

犬の多中心型リンパ腫の症状

臨床症状を示さないものから、食欲低下や元気消失、嘔吐下痢などの消化器症状、咳などの呼
吸器症状まで病気の進行状態により様々です。
通常は複数の体表リンパ節が腫れます(首元の腫れや膝裏の腫れ)。

犬の多中心型リンパ腫の診断

診断は腫れているリンパ節を摘出し、病理組織学的検査を行うのが望ましいですが、針で腫瘍を穿刺し採取した細胞で細胞診を行い、リンパ系細胞の悪性度やクローナリティ検査によりB細胞性リンパ球もしくはT細胞性リンパ球の増殖かを判断することで診断することもできます。診断時に血液検査、レントゲン検査、超音波検査を行うことで、腫瘍のステージング、併発疾患の有無、予後因子についても評価します。


院内で行った細胞診検査。クローン性に増殖した大型リンパ球が散見される。右の写真は多中心型リンパ腫のステージング分類

犬の多中心型リンパ腫の治療

治療は高悪性度リンパ腫と低悪性度リンパ腫で大きく異なります。
高悪性度の場合、ステロイド剤を用いた多剤併用化学療法(抗がん剤)が一般的であり、これらを
組み合わせたプロトコルが複数存在します。抗がん剤の種類によっては起こり得る副作用が違う
ため、病気のことから抗がん剤のメリットやデメリットも含め、獣医師としっかり相談して
治療方針を決めていきます。

抗がん剤は1~9週目までは毎週投与、その後は隔週で投与、25週目の投与を行って終了とし、定期検査をしていきます。治療の反応性により、途中からレスキュープロトコルへ移行することもあります。


低悪性度の場合、治療開始基準は獣医学領域では定まっていません。今後進行期のステージに
入りそうな臨床症状を伴う患者に対して、ステロイド剤単独、もしくはクロラムブシルやメルファランなどの抗がん剤を使用します。

 

犬の多中心型リンパ腫の予後

高悪性度の多中心型リンパ腫に対して、無治療での生存中央値はおよそ4〜6週、抗がん剤を
行った場合の生存中央値は10〜13ヶ月と言われており、1年生存率は50%ほどと言われてい
ます。また、多中心型リンパ腫はB細胞性リンパ球の増殖が多いですが、T細胞性リンパ球の増殖の場合、B細胞性と比較して予後は悪いです。
一方低悪性度の多中心型リンパ腫は予後が長く、生存中央値は938日と言われています。

 

多中心型リンパ腫は初めは無症状でリンパ節のみが腫れることが多く、進行すると食欲不振や元気消失などの臨床症状を伴ってきますので、常日頃から病院で健診を受けたり、自宅でリンパ節の場所を触ってみて、腫れているなと感じることがあれば早めの受診をお勧めします。

 

なぐら動物病院 獣医師 安部昌平

愛知県東郷町 名古屋市緑区天白区 日進市 豊明市 みよし市近郊