猫の病気
2023.05.26
猫の尿路結石(会陰尿道瘻手術)について
猫の尿路結石(排尿障害)とは
猫は体質や食事の影響などで、膀胱や尿道、腎臓などに結石ができてしまうことがあります。猫の尿管や尿道は非常に細く、砂状の結石でも詰まってしまうことがあり、特に雄の猫は尿道は細く長いため、結晶などの細かな結石でも詰まってしまうことがあります。尿が出ないなどの排尿障害を起こすと急性腎不全となり、非常に危険な状態となってしまいます。
猫の尿路結石の原因
猫の結石ができてしまう原因としては、その子の体質もありますが、食事が大きく影響している場合が多いです。また、飲水量が少ないことでも結石ができやすい状態となり、常に新鮮な水を置くことやウェットフードを与えることなどの工夫も大切です。
猫の尿路結石の症状
猫の尿路結石の症状は、結石のできている場所や閉塞の程度によって異なります。
膀胱内に存在している場合は、血尿や頻尿でトイレに何度も行ったり、ソワソワしていつもと違う様子を見せるものの、大抵の場合、元気や食欲はあります。尿道に結石や結晶が詰まってしまった時は、トイレに入っても尿がポタポタとしか出なかったり、あるいは全く出ない状態となり、元気なく、ぐったりうずくまってしまいます。場合によっては、抱っこすると怒ったり、呼吸が荒くなるなどの症状が見られることもあります。嘔吐やよだれの症状がみられるようになった時には、すでに急性腎不全を起こしている場合が多く、すぐに病院で治療を受けないと危険な状態となっています。
尿管に結石が詰まっている場合、ある程度排尿できている場合には、軽度の腎不全の症状がみられ、飲水量が増えたり食べているけど痩せてきたりなどの症状が見られます。両側の尿管に結石が詰まってしまい、完全に閉塞してしまった場合には、急性腎不全の症状(嘔吐、食欲廃絶、ぐったりしている、呼吸が荒いなど)がみられます。
猫の尿路結石の治療
治療は尿路結石が詰まってしまった場所により異なります。
元気食欲があり、膀胱内に結晶や小さな砂があるのみの場合、食事療法などの内科的な治療がメインになります。膀胱内の結石が溶けなかった場合や溶けない結石の場合は、手術で結石を取り除き、その後は再発しないように食事療法を行います。
雄猫で尿道に詰まってしまった場合は、カテーテルを尿道に挿入し、尿道や膀胱を洗浄、尿道閉塞を解除します。その際、腎不全を併発してしまっている場合には、同時に腎不全の治療も行います。尿道にカテーテルが通らない状態の時や何度も結石が詰まってしまい、排尿が出来なくなってしまうような場合には、尿道を大きく開口させる手術(会陰尿道瘻設置術)を行います。会陰尿道瘻手術は、ペニス部分の細い尿道を切除し、肛門の下あたりに尿道を開口させ、スムーズに排尿できるようにする手術です。
写真は、先日、会陰尿道瘻設置手術を行った雄猫ちゃんの術後5日後の写真です。
この子は、「今朝から、急に陰嚢が真っ赤に腫れあがり、痛がっている」ということでご来院されました。お話を伺うと、1年程前に尿が詰まり、他院でカテーテルを入れて入院治療を行ってもらったものの、その後からずっと尿はポタポタとしか出ない状態とのことでした。食事は尿石予防用の療養食を与え、去勢手術済みの子でした。
腫れあがった陰嚢
真っ赤に腫れあがった陰嚢をエコーで観察すると、中に液体が貯留しており、その液体を調べると尿であることが判明。尿道の一部が破れて、尿が陰嚢に溜まった状態でした。レントゲン等の検査で、膀胱や尿道に結石や結晶は確認できませんでした。ペニスの先はつぶれ、カテーテルが挿入できる状態ではなかったため、急遽、陰嚢にドレーンを設置したところ、ドレーンを伝って排尿ができるようになりました。陰嚢や陰嚢周囲の皮膚の腫れがひどく、太腿の辺りまで皮膚の炎症は広がり、皮膚は壊死する可能性が高かったため、皮膚の回復を待ってから会陰尿道瘻手術を行いました。
壊死した陰嚢と大腿部皮膚の壊死
壊死した陰嚢と大腿部の壊死部分の皮膚を切除し、尿道を肛門下に設置しました。
会陰尿道瘻手術直後(尿道カテーテル挿入しています)
術後は順調に回復し、尿もしっかり出るようになり、元気に退院していきました。自分で排尿ができるようになると、とても穏やかな表情になった猫ちゃん。痛い部分がなくなって良かったね。
1カ月後の様子
この他、結石は尿管に詰まってしまった場合、内科的に維持が難しいようなケースでは、開腹手術にて尿管結石を除去したり、アメリカで発売されているSUBシステムという器具を装着し皮下尿管バイパス手術も行われています。
尿路結石の予防
尿路結石の予防としては、まず、食事は尿路結石を配慮したフードを選びましょう。安すぎるフードは材料が粗悪で添加物も多く、よくないことはご存じかと思いますが、高価なフードのすべてが良いというわけでもありません。その子に合ったフードを選ぶことが大切です。また、定期的に尿検査を行うことも非常に大切です。症状がなくても、結晶が尿に出ていることもあり、大きな結石になってしまう前の結晶の段階で発見できれば、病気にならずにすみます。
愛知県東郷町 なぐら動物病院 名倉美智子