お知らせ・コラム

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犬の病気

2023.06.12

犬の全外耳道切除

犬の外耳炎について

日ごろの診療において、外耳炎は非常によく遭遇する疾患です。耳の入り口から鼓膜までを外耳道といいます。そこに何らかの原因により炎症を起こした状態が外耳炎です。

外耳炎はマラセチアといわれる酵母菌や細菌の感染が主な原因です。耳が垂れ耳であったり、プードルやシュナウザーは耳毛が密に生えていたり、犬側の環境的なことも発症の要因となります。

外耳炎は適切な洗浄や投薬などによる治療を行うことにより、良好なコントロールが行えますが、基礎疾患にアレルギーがあったり、柴犬やコッカスパニエルといった犬種においては慢性化することがあります。

慢性化すると耳道の腫れが引かず、徐々に耳道が狭くなってしまい、さらに外耳炎の症状が悪化します。このような状態になると洗浄や投薬では解決することが難しく、最悪な場合中耳炎へと進行し、めまいやふらつきなどの症状が出たりします。また、重度の外耳炎に起因して外耳道にポリープが出来たり、逆に腫瘍が発生したことにより慢性的な外耳炎となってしまう場合もあります。

今回外耳道に発生した腫瘍によって外耳道が狭窄し、細菌感染による悪臭が認められたビーグル犬において、全耳道切除術を行いましたのでご紹介いたします。

犬の外耳道内腫瘍

今回、当院にご来院されたビーグル犬は、耳が非常に臭いということでご来院されました。右耳に重度な炎症が認められ、耳道の入り口付近に大きな腫瘤が認められました。腫瘍は大きく、細い綿棒も耳道内に入れる隙間がない状態でした。

まずは炎症を起こしている外耳道の感染をコントロールするため、どのような抗生物質が効果があるのかを調べる細菌の感受性検査を行いました。このような腫瘤は慢性的な外耳炎による炎症の結果、外耳道に発生してしまう場合がありますが、腫瘍の可能性もあるため、細胞診断も行いました。その結果採取された細胞から腫瘍細胞が認められ、炎症や感染のコントロールだけでは改善されないことが分かりました。今回の細胞診断では腫瘍であることは確認できましたが、正確な腫瘍の種類や良性悪性の判断まではできませんでした。

腫瘍の大きさや発生部位から判断すると、腫瘍だけを耳道の入り口から摘出することは不可能と考え、術前に良性悪性の正確な判断ができていないこともあり、今回は腫瘍を含めた全耳道摘出手術を行いました。

犬の全外耳道切除手術

術前の写真

上記の写真は術前の患部の状態です。矢印の先の耳道の入り口に腫瘍が認められます。

術後の患部の様子です。その後2週間ほどで抜糸を行いました。術後は顔面神経へのダメージも認められず、良好な経過をたどりました。病理検査にて腫瘍は良性の腫瘍で、完全に摘出されており、再発転移の心配もないと診断されました。

ご家族は匂いが消え、もともと垂れ耳のワンちゃんでしたので見た目も変わらず、とても喜ばれました。

犬の全外耳道切除について

全耳道切除術は今回のように外耳道内に腫瘍が発生した場合に適応になりますが、腫瘍以外にAコッカースパニエルなどに多い重度な慢性外耳炎においても適応となります。

重度な外耳炎では耳道が肥厚狭窄し、耳の洗浄や投薬でうまくコントロールができない場合があり、そのまま時間が経過するとさらに外耳炎が悪化し、生活の質が下がりワンちゃん自身も大変不快に過ごすことになってしまいます。このような子に全耳道切除術を行うことで、外耳炎の改善や不快感の軽減が期待できると考えられます。ただし慢性の外耳炎の犬の中には、アレルギー性皮膚炎やアトピー性皮膚炎を持病としている場合があり、そのような場合は全耳道切除術だけで完治することまなく、必ずアレルギー性皮膚炎のコントロールを併用する必要があります。

健康な犬であっても日ごろからお耳のケアを行い、お耳の状態をチェックしてあげましょう。

 

愛知県愛知郡東郷町 なぐら動物病院 名倉義治