お知らせ・コラム

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猫の病気

2023.08.04

猫伝染性腹膜炎(FIP)について(2023年)

猫伝染性腹膜炎(FIP)は、猫コロナウイルス感染により発症し、以前は完治しない不治の病として猫にとって、とても恐ろしい感染症でした。近年、人の新型コロナウイルス感染症が広がり、コロナウイルスの治療薬の開発が進んだことから、猫伝染性腹膜炎の治療に応用されるようになり、ようやく学会での治療報告が出てくるようになりましたので、現在の見解をお知らせいたします。

猫伝染性腹膜炎(FIP)とは

猫伝染性腹膜炎(FIP)は、猫コロナウイルスの遺伝子変異を起こした変異株による全身性の感染症で、腹水などが溜まるウェットタイプと全身に肉芽腫などの炎症を起こすドライタイプと分けられていましたが、2022ガイドラインでは区別されなくなっています。ドライタイプと発症猫であっても病理解剖時に微量の滲出液が見られることが多くあるためのようです。猫コロナウイルスは日本の飼育ネコの40%が感染していると言われ、その多くは消化管に限局した感染(腸コロナウイルス)で、下痢などの症状を起こしますが、その感染は一過性で70%が完治します。猫コロナウイルス感染の10%程度が持続感染すると言われ、その一部のウイルスが遺伝子変異を起こし、全身感染となり伝染性腹膜炎(FIP)を発症します。その多くは若齢猫で60%は2歳未満の猫で発症しています。

 

猫伝染性腹膜炎(FIP)の症状

症状は、元気消失、体重減少、発熱、黄疸、腹部膨満(腹水貯留)、腹腔内腫瘤(化膿性肉芽腫)、リンパ節腫大、胸水、痙攣、運動失調、眼振、目の濁り、虹彩の色の変化、皮膚壊死など、様々な全身の症状が見られます。これらすべての症状が認められるわけではなく、症状は個々で異なります。

 

猫伝染性腹膜炎(FIP)の検査

血液検査、抗体検査、肉芽腫の病理検査、PCR検査(血液、腹水、肉芽腫の細胞など)などを行います。抗体検査やPCR検査では腸コロナウイルスとFIPコロナウイルスの区別ができないため、症状と合わせて総合的に判断します。

 

猫伝染性腹膜炎(FIP)の治療

かつては、不治の病で発症したら治すことができませんでしたが、近年では完治した例が多く認められています。数年前からMUTIAN、GS441524という治療薬による治療により、完治した例が数多く報告されています。しかし、治療薬の入手が困難なことや治療費が高額(100~150万円ほど)ということがとてもネックになっています。一方で、新型コロナウイルスの治療薬であるレムデシビルや比較的安価なモルヌピラビル(日本ではラゲブリオ)による治療報告が出てきており、良好な経過をたどっているケースが報告されるようになってきました。当院では、現在2頭のFIP感染症の猫の治療を行っておりますが、比較的入手しやすく、低価格(1/10以下の価格)のモルヌピラビルを使用し、経過を観察しております。いずれも大きな副作用は見られず、良好な経過をたどっています。今後は、完治することができるのか、再発はないのか、また副作用についても経過観察していく予定です。

FIPは特殊な高額な治療薬を使用しなければ命を落としてしまいますが、高額な治療費で治療をあきらめている方は、一度、ご相談いただければと思います。まだ手探りな状態ではありますし、必ず完治できると言うことは出来ませんが、何もしなければすぐに亡くなってしまいます。少しでも猫ちゃんが苦しみから解放され、寿命を延ばすことができればと願っております。

 

2023.10.24現在 FIP感染症の猫2頭は投薬を終え、検査結果も良好のため完治とし、治療終了となりました。このほか、4頭のFIP感染症の猫の治療中ですが、かなり状態が悪かった仔猫1頭を除き、いずれも良好な経過をたどっています。重度の貧血が見られた猫2頭は、薬が効くまで命が間に合わない状態と判断され、輸血を行っております。

2024.1.30現在 さらに3頭のFIP感染症の治療が終了しました。

2024.7.30現在 合計34頭のFIP感染症の治療を行い、そのほとんどが回復していますが、来院時にすでに重症であったり、発症から時間が経っている数例は残念ながら亡くなっています。いかに早く診断し、治療を始めたかが重要となってきます。

 

FIPの変化(2024年)

猫伝染性腹膜炎(FIP)は、従来、弱毒の猫腸コロナウイルスが、免疫力の低い猫の体内で強毒FIPウイルスに変異し、発症して起こる疾患とされてきました。そのため他の猫には感染することはないとされ、事実、同居の猫で多発することはありませんでした。しかし、近年では同居の猫に発症してしまう例が多く見受けられ、FIPウイルスを発症した猫からの感染が認められるようになりました。多くは子猫の時に感染した腸コロナウイルスが変異して、比較的若い猫に発症していたFIPですが、10歳以上の猫で感染が見つかったり、単頭飼育の高齢猫で発症したり、従来のFIPとは異なった発症が多く見られるようになりました。人のコロナウイルス感染が変化したのと同じく、猫のコロナウイルスも変異したものと考えられます。症状は異なるにせよ、猫から猫のみならず、おそらく人を含む他の動物から感染したり、他の動物に移すということも考えられ、今後の研究が待たれます。

 

猫伝染性腹膜炎(FIP)の症状(2024年)

FIP発症猫の症状は、以前と変わりはなく、元気消失、発熱、黄疸、貧血、腹水や胸水貯留、腹腔内などに腫瘤(化膿生肉芽腫)の発生、リンパ節腫大、目の濁り、虹彩の色調変化、痙攣、歩行異常、皮膚炎など様々で、複数の症状が出ている場合もあれば、1つのみでわかりにくいこともあります。目の症状のみや皮膚にのみ変化が見られた子の場合、非常にわかりにくく、様々な検査を行う必要があります。

猫伝染性腹膜炎(FIP)の検査(2024年)

現在、FIPと診断ができる最も信頼おける検査は、FIPのPCR検査です。ただし、ウイルス量が少ないと偽陰性が出る可能性があります。そのため、以前から行われている抗体検査やγグロブリン上昇、SAA上昇、α1AG上昇、高ビリルビン血症、貧血などの情報と、腹腔内のリンパ節腫大や腫瘤の有無、腹水や胸水の確認、腎臓の形態異常などのチェックを行い、総合的に判断します。

 

猫伝染性腹膜炎(FIP)の治療(2024年)

治療は主に抗ウイルス薬の投与がメインとなります。抗ウイルス薬を投与しないと完治することはありません。

抗ウイルス薬は、主に海外で流通しているレムデシビルやGS441524、モルヌピラビルになります。レムデシビルとGS441524は数年前から海外で未承認薬として猫に使用されてきた背景があり、治療経過が長く治療ガイドラインなども確立されていますが、非常に高価で入手も困難な薬となります。モルヌピラビル(ラゲブリオ)は日本で入手することができ、レムデシビルやGS441524に比べると安いものの高額で、治療期間が3ヶ月を要するため負担が大きくなります。当院では、主にモルヌピラビルのジェネリックを使用しているため、今のところ安価に治療が行えています。重症の子向けに注射薬のレムデシビルも用意はいていますが、高価となります。

治療が成功するか、しないかは、早期に診断をつけることができ、早期に治療を開始できたかが大きく影響し、また充分な期間、投薬を行えたかが重要のようです。中には進行が非常に早かったり、肉芽腫を発症した場所によっては、早期に治療をしても亡くなってしまったり、後遺症が残ったりするケースもあるでしょう。また、本当に完治したのかが、非常にわかりにくいため、3ヶ月服用後、休薬となった治療後も充分に注意して観察する必要があります。

今後の課題

とにかく、治療薬がどの病院でも簡単に入手できるようになり、価格も安くなることが望まれます。密かに売買されている当時は治療に100万円以上かかると言われ、治療を諦めざるおえないケースが多かったと思いますが、現在は比較的安価に治療が行え、完治することができるようになりましたので、諦めずに治療を行ってもらえればと思います。治療費は、体重や重症度で異なりますので、お問い合わせいただければと思います。

 

 

 

愛知郡東郷町 なぐら動物病院 名倉美智子

名古屋市緑区、天白区、日進市、豊明市、みよし市、刈谷市近郊の方、お困りの際は当院にご相談ください。